水とくらし
日本の飲料水や水道の歴史とは? 安全な水を守るための課題も紹介
毎日当たり前のように利用している、水道や飲料水。しかし、世界で見れば、水道水を安全に飲める国は限られています。
日本の水道は、どのように造られたのでしょうか。日本の水の歴史や水質が向上した経緯、これからの水道事業の課題などをご紹介します。
目次
日本の水の歴史
水道をひねってそのまま水が飲める国は、世界の中ではあまり多くありません。世界の中でも水質の高さを誇り、安全性も高い日本の飲料水はどのように得られるようになったのでしょうか。水道の普及や水資源の活用など、日本における水利用の歴史を見ていきましょう。
江戸時代に日本初の水道が造られた
日本に水道が初めて造られたのは、徳川家康が江戸幕府を開いたときに造った「小石川上水」です。それ以前は、生活用水として川や井戸の水を汲んで生活をしていたのですが、人口増加や水質の問題などがあったことから、現代の水道の原型となるような水道施設が造られました。
東京には「◯◯上水」と上水が付く地名がありますが、これはこの江戸時代の上水設備の名残なのです。
明治に入り浄水施設が整備される
明治時代に入ると重化学工業の発展が進み、工業用水の需要が拡大します。まだ水をろ過する浄水技術がなかったため水が汚染され、衛生環境の悪化に伴いコレラが大流行しました。
このときに死者も拡大したことから、都市部で神奈川県の「野毛山浄水場」や東京の「淀橋浄水場」、京都の「蹴上浄水場」といった、現代の水道施設につながる近代的な水道施設の整備が進みました。
戦後の社会の成長に伴い、安定的な水の確保を実現させる
戦後の高度経済成長や人口増加により、生活や工業、農業に使用する水の需要が急増します。そのため、ダムなどの水資源の開発が実施され、安定的に水を確保できるようになりました。
また、ダムの水資源開発や水質・環境保全といった、水の利用に関する法律の整備も実施されていきました。
昔より水質が向上し、おいしくなった水道水
実は、日本の水道水は、昔よりおいしくなっていることをご存知でしょうか。昔よりも水道水の水質が向上したためですが、ここからは、どの程度向上したのかを確認していきましょう。
法整備により、原水の水質が向上した
平成初期頃までは水道の水源に関する法律が十分整備されていなかったため、水質汚染事故が多発していました。しかし、1994年になると、水源二法が施行されるなど、水質保全への意識が高まっていきました。
実際に、水の味に影響を与える「アンモニア態窒素」と「2-メチルイソボルネオール」の源水水質データの推移を見てみましょう。アンモニア態窒素は塩素と反応することでカルキ臭さの原因となり、2-メチルイソボルネオールはカビ臭さの原因となる物質です。
■アンモニア態窒素 年平均値(金町浄水場原水)
出典:東京都水道局「水源・水質」
アンモニア態窒素は、1984(昭和59)年から1989年(平成元)年にかけて、量が急激に少なくなっていることがわかります。
■2-メチルイソボルネオール 年平均値(金町浄水場原水)
出典:東京都水道局「水源・水質」
また、2-メチルイソボルネオール 年平均値(金町浄水場原水)も1994(平成6)年から2000(平成12)年にかけて大きく減少し、それ以降は正確に量れる分析値の最小値となっています*。
*東京都水道局「水源・水質」
浄水処理技術の向上や施設の整備により、浄水の水質も向上した
平成初期は原水の水質が良くなかったことに加え、浄水処理技術の未熟さや浄水施設の未整備などにより、水の味に対する満足度は高くありませんでした。
■水の味(おいしさ)に関するお客さま満足度
出典:東京都水道局「水源・水質」
そこで、東京都水道局では、おいしい水を作るために平成4(1992)年から利根川水系の浄水場に高度浄水施設の導入を進めました。そうした努力の甲斐もあって、アンケート調査をしたところ、お客様からの水のおいしさに関する満足度が大きく上昇する結果になったそうです。
安全な水道水を守っていくための課題
日本の安全な水道水を今後も守っていくためには、現在、いくつかの課題があります。
人口減少により、水道事業の収益が悪化する
今後、日本全体の人口が減少していくことが予想されるため、私たちが利用する水道の需要や事業収益も悪化してしまうことになります。そういった中で、地方自治体において、今後も水道事業をどのように継続していくかという点が課題になっています。
水道施設の老朽化
高度成長期頃に造られた、日本の多くの水道施設は老朽化しています。
近年、大雨や台風などの自然災害が甚大化していることにより、水道施設の更新が必要です。また、耐震化も、多くの水道施設が対応していかなければなりません。
しかし、現在の水道事業者の財務状況や体制では、全ての水道施設を一気に更新していくことは難しいといえます。
水道事業者における職員の高齢化
これまで日本の水道事業を担ってきた、経営や技術面でのノウハウを持つ職員が高齢化しています。今後そういったベテラン職員たちが退職していくことで、水道事業に人手や技術が不足していくことが考えられます。
このような課題に対応するために、2019年に水道法の改正が行われました。
改正した水道法のポイントとしては、関係者の責務の明確化や広域連携の推進、適切な資産管理の推進、官民連携の推進、指定給水装置工事事業者制度の改善などが挙げられます。
これまでも官民連携の仕組みはありましたが、水道法の改正によりさまざまな形でステークホルダーが水道事業に関わることが可能になり、より持続的な水道事業を進めていきやすくなりました**。
**厚生労働省「水道法の改正について」
まとめ
今回は、日本の水道の歴史や味の進化、今後の水道事業の課題などをご紹介しました。
普段、私たちは、蛇口をひねればおいしい水が出て、飲んだり料理に使用したりすることが当たり前という状況で生活しています。しかし、さまざまな課題にも直面しています。
今後も水道を安心して使っていくためには、持続させる努力をしていかなければならないでしょう。