水とくらし

DIY

世界の17ヵ国では深刻な水不足!水紛争が起こる原因や具体例とは

 

水不足 世界

 

近年、気候変動の影響や急激な人口増加、産業化の進行などにより、世界の多くの地域で深刻な水不足が発生しています。特に、中東やアフリカ、アジアの一部を含む17ヵ国では、生活や農業に必要な水資源が極度に不足しています。

 

今回は、水不足が招く世界の水紛争について、その根本的な原因と具体的な事例を取り上げるとともに、私たちが直面する水の未来についてもご紹介します。

 

 

目次

     

     

     

    世界の17ヵ国では水ストレスがある

     

    気候変動や人口増加に伴う需要の増大などによって、世界で水不足が深刻化しています。世界銀行によると、世界の約25%の人々が居住している17の国々が、慢性的な「水ストレス」に直面しているとされています*。

    *世界銀行が2021年に発表した報告書「水リスクとその影響(Ebb and Flow)

     

     

     

    水ストレスとは水の需要が共有を上回ること

    水不足 世界

     ※出典:国土交通省「水資源問題の原因

     

    「水ストレス」とは、水の需要が供給を上回る状態を指します。この水ストレスは、人口1人当たりの最大利用可能水資源量で表せます。

    生活や農業、工業、エネルギーなどの人々の生活に必要な水資源量は年間1人当たり1,700 m3 が最低基準とされており、下回る場合(上のグラフのオレンジ色の部分)には「水ストレス」状態となります。また、1,000 m3 を下回る場合(上のグラフの赤色の部分)には「水不足」の状態、さらに500 m3 を下回る場合(上のグラフのえんじ色の部分)には「絶対的な水不足」の状態です**。

     

    深刻な水ストレスを抱える中東・北アフリカ

    上の図のストレスが水ストレスが高い17ヵ国のうち、グラフの赤やえんじ色にあたる12ヵ国が中東・北アフリカにあります**。この地域には世界人口の約7.5%が住んでいますが、淡水量は世界の約1.4%しかありません。また、武力紛争が集中するこの地域では、水不足も対立、摩擦の一因になっているといわれています。

    特に、中東諸国は雨が少なく、地下水に頼る傾向が強いため、水資源の再生が追いついていないのが現状といえるでしょう。

     **国土交通省「水資源問題の原因

     

     

     

    水ストレスのある地域で発生する水紛争

    水不足 世界

     

    水は生命維持に不可欠な資源であり、不足することで国家の経済活動や社会安定にも大きな影響を与えます。しかし、水の供給が限られている地域では、その貴重な資源をめぐり、「水紛争」が発生しています。

     

     

    水紛争とは水資源が原因で発生する対立や衝突

    「水紛争」は、水資源の不足や配分の不平等を原因として発生する対立や衝突のことを指します。単なる国家間の問題にとどまらず、地方自治体間、民族間、農民と企業の間など、多層的に発生するのが特徴です。特に、農業や水力発電への依存度が高い国々では、水の使い方をめぐる利害が複雑に絡み合い、外交的・軍事的緊張に発展することもあります。

     

    また、気候変動による干ばつや洪水の頻発は水供給をさらに不安定にし、水資源をめぐる競争を激化させています。水紛争は、21世紀の新たな地政学的リスクとして、世界的な注目を集めています。

     

     

    水紛争が起こる原因

    水紛争が起こる根本的な原因は、限られた水資源に対する需要の急増と、不平等な水の分配にあります。人口増加や都市化の進行により、水の消費量は年々増加していますが、地球上の淡水は全体のわずか2.5%に過ぎず、しかもその多くは氷河や地下深くに存在し、利用が難しい状況です。

     

    さらに、気候変動により降水パターンが変化し、干ばつや洪水が頻発することで、水資源の供給が不安定になっています。また、水を共有する地域間で管理や使用のルールが明確でない場合、不信感が生まれ、対立へと発展しやすくなります。水は生活、農業、産業すべてに関わるため、その争奪は社会全体に深刻な影響を及ぼすのです。

     

     

     

    世界で起こる水紛争の例

    水不足 世界

    ※出典:国土交通省「水資源問題の原因

     

    世界では、水資源をめぐる対立が各地で深刻化しており、時に外交的緊張や社会不安を引き起こしています。ここでは、実際に発生している代表的な水紛争の例を取り上げ、背景や影響について詳しく解説します。

     

     

    【エジプト・エチオピア・スーダン】ナイル川をめぐるダム建設と配分

    アフリカ最大の河川であるナイル川は、上流のエチオピアからスーダン、下流のエジプトへと流れる越境河川です。エチオピアが自国の発展のために進めている「グランド・エチオピア・ルネサンス・ダム」の建設をきっかけに、下流国であるエジプトやスーダンとの対立が激化しました。

     

    エチオピアは水力発電を通じた経済成長を目指していますが、エジプトはナイル川の水量が減ることにより自国の農業・生活用水が脅かされると懸念し、スーダンも治水への影響を問題視しています。このように、水の配分をめぐる利害対立は、外交交渉や国際仲裁の場へと広がっているのです。

     

     

    【インド・パキスタン】インダス川をめぐる水の所有権

    南アジアでは、インドとパキスタンがインダス川をめぐって長年にわたり対立しています。両国は1960年に「インダス水協定」を結び、支流ごとの水の利用権を定めましたが、インドが近年建設を進めるダムがこの協定に反するとして、パキスタン側が反発しています。

     

    この水紛争は、両国の軍事的緊張と重なり、水問題が安全保障に直結するリスクを象徴する例です。政治的に不安定な地域で水を取り合う構図は、暴力的衝突へとつながる危険性をはらんでいるといえるでしょう。

     

     

    【トルコ・シリア・イラク】チグリス・ユーフラテス川をめぐる水資源開発と配分

    中東においては、チグリス川とユーフラテス川という2つの大河が、トルコ、シリア、イラクを流れる重要な水源です。トルコは自国の水利開発計画「GAPプロジェクト」に基づき、これらの川に複数のダムを建設し、灌漑や発電に活用しています。

     

    しかし、この開発によって下流のシリアやイラクへの水量が減少し、農業や飲料水への深刻な影響が出ています。特に干ばつの際には、水不足が加速し、地域住民の生活に直接的な被害が及ぶため、国家間の緊張が高まる要因となっています。

     

     

    【カザフスタン・ウズベキスタンなどの中央アジア】アラル海の水の感慨利用と配分

    旧ソ連時代の大規模灌漑事業により、中央アジアのアラル海は著しく縮小しました。特にウズベキスタンとカザフスタンを含む周辺国では、水の利用権や配分をめぐって対立が続いています。

    アラル海流域の河川であるアムダリヤ川とシルダリヤ川が無秩序に使われたことで、生態系破壊や塩害、砂嵐が発生し、住民の健康被害も深刻化しました。現在も水資源をどのように公平に分配するかが、地域協力の大きな課題となっています。

     

     

    【アメリカとメキシコ】リオグランデ川問題

    先進国間でも水紛争は発生しています。アメリカとメキシコの国境を流れるリオグランデ川(リオ・ブラボー)では、水量不足が続く中、条約で定められた水の分配が十分に守られていないとして、外交摩擦が起きています。

    特に干ばつ時にはメキシコ側の水供給が滞り、アメリカ南部の農業生産にも影響を及ぼすため、国際的な交渉が不可欠となっています。

     

     

     

    現代では水は地政学リスクの中心課題に

    水不足 世界

     

    このように、水資源をめぐる争いは、国境を越えてさまざまな形で発生しています。水は生活の基本でありながら、限られた共有資源でもあるため、国家間の調整が欠かせません。

    今後、人口増加や気候変動の影響により水紛争はさらに深刻化する恐れがあり、国際社会の協調と持続可能な水管理がより強く求められています。

     

     

    世界や日本で起きている水不足については、こちらの記事も併せてご覧ください。

    世界や日本で起きている水不足とは? その現状や原因、解決方法について