水とくらし
国土の1/4が海抜0m以下!土地が低いオランダに学ぶ治水対策
今回は、土地が低く、水害が多いことでも知られるオランダを例に、日本との治水対策の違いを学んでみませんか?取り入れられそうなところは取り入れて、人類最大の危機である気候変動にもうまく対処していきましょう。
目次
海抜0m以下の土地が多いオランダ
オランダの英語名は「Netherlands」といい、netherには「低い・下方の」といった意味があるため、Netherlandsは「低地の国」といった意味になります。
オランダは国土の1/4が海抜0m以下にある
オランダの国土のおよそ1/4が海抜0m以下といわれ、オランダで人口3位までを占めるアムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグの3都市は、ほぼ海水面以下に位置します。オランダでは海抜以下の土地で人口の3分の2が暮らし、GDPの7割が生み出されているのです。
風車で干拓して土地を作ってきた
オランダといえば、風車のイメージがある方も多いのではないでしょうか。今でも現役の風車も多いですが、風車は海や川を干拓して作られたオランダの歴史に欠かせない遺産のひとつです。
オランダにある海抜0m以下の土地というのは、オランダ人が干拓して新しく作った土地になります。干拓するために、昔は風車の力が用いられてきたのです。
何世紀もの間、オランダは暴風雨による高潮や洪水に悩まされてきた
低地の国であるオランダは、昔から水害に悩まされてきました。オランダにはどのような水害と戦った歴史があり、どのように取り組んできたのでしょうか。
西暦900年から1900年の間、124回もの水害に襲われる
文献によると、オランダでは、西暦900年から1900年の間に124回もの水害の記録が残っています。そのため、オランダでは、12世紀から堤防整備が行われていました。17世紀になると水害の数が途方もなく多くなり、その後18世紀は水害の発生件数は比較的落ち着いていたものの、19世紀には水害の数はまた増加しています。
1953年に大規模な水害が起きたことから、大規模治水計画「デルタ計画」がスタート
近年にもいくつか水害は発生しましたが、オランダの国民の記憶に残る最後の、最も大規模なのが1953年に起きた「北海大洪水」です。北海沿岸地域で発生した洪水で、オランダだけでなく、隣接国であるイギリスやベルギーにも被害が及びました。
ただ、この北海大洪水では、オランダの被害が最も大きく、死者は2,000万人近く、10万人以上が家や家財を失い、20万以上の家畜が犠牲になりました。
この水害がきっかけとなって、オランダにおける大規模治水計画の「デルタ計画」が策定されました。オランダのライン川河口の三角州(デルタ)を高潮から守るために作られた、ダム・堤防・水門・閘門(こうもん)など、一連の治水構造物建設およびその計画のことを指します。
度重なる水害 から自らの国土を守るために,堤防は輪中堤のように国 土を囲むように築かれてきました。輪中堤のような堤防は、「 堤防リング(Dike-ring)」と呼ばれています。
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
オランダと日本の水害対策の比較
ここからは、北海道開発局が作成した『オランダにおける気候変動適応方策について』という資料をもとに、オランダと日本の水害対策を比較していきます。
オランダと日本の治水対策における共通点
まずは、オランダと日本の治水対策における共通点をご紹介します。遠く離れた国同士ながら、意外と同じような対策が取られていることがわかるでしょう。
共通点①河道掘削(かどうくっさく)
左:オランダ、右:日本
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
河道掘削は、洪水時の水位を低下させるため、河道を掘って水が流れる面積を広く整備することです。特に、川底の土砂を取り除く作業を「浚渫(しゅんせつ)」といいます。
共通点②堤防の嵩上げ(かさあげ)
左:オランダ、右:日本
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
堤防の嵩上げは、堤防の高さを上げることによって河道の流下能力を向上させる方策です。ただし、水位の上昇により、仮に決壊した場合、被害が現状より大きくなる恐れがあることに注意が必要です。嵩上げを行う場合は、地盤を含めた堤防の強度や安全性について照査を行わなければなりません。
共通点③引堤(ひきてい)
左:オランダ、右:日本
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
引堤は、堤防間の流下断面積を増大させるため、堤内地側に堤防を新築し、旧堤防を撤去する方策です。河道の流下能力を向上させる効果がありますが、効果があるのは対策を実施した箇所付近ですが、水位を低下させる効果はその上流に及ぶ場合もあります。
オランダと日本の治水における相違点
オランダと日本で、治水対策にさまざまな共通点がある一方、相違点もあります。どのような点に違いがあるのか見ていきましょう。
相違点①オランダには、洪水調節施設としてのダムはない
左:オランダ、右:日本
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
オランダでは最高標高地点でも300m程度であるため、洪水調節施設として、高低差が必要なダムの整備はほとんど行われていません。その代わりに遊水地や貯水池などは整備されています。一方、 日本では、洪水調節施設として、ダムや遊水地で水を一時貯め、洪水時の河川水位を下げる方法が取られています。
相違点②治水安全度・施設等の整備率
左:オランダ、右:日本
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
上記の表から、オランダの治水安全度は日本よりも高いことがわかります。 オランダでは、2016年までは流量超過確率1/10,000〜1/1,250の高い確率規模での整備を行い、量的整備が概ね完了しました。 2017年以降は、氾濫確率に基づく新しい整備目標に移行し、目標値1/100,000〜1/300を設定しています。
オランダの近年の治水と気候変動への対策
近年、これまで以上に綿密な治水や気候変動への対策が求められています。オランダはどのような対策を行っているのか紹介します。
氾濫リスク管理アプリ 「浸水するの?」
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
オランダでは、市民を対象に、浸水に関する情報を知ることができるツールとして、「浸水するの?( Overstroom ik?) 」が提供されています。 自宅の住所を入力すると、「自宅が想定される最悪の洪水時(発生確率1/4,000、洪水と高潮が同時に発生し、ライン川が 河道満杯になる洪水)にどの程度の浸水深になる可能性があるのか、また、その浸水を経験する確率はどのくらいあるのか」などを知ることができます。
氾濫被害の推定
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
オランダのインフラ水管理省(Ministry of Infrastructure and Water Management)と公共事業局は、危機管理者向けツール 「国家情報システム『水と洪水』」を提供しています。氾濫発生時の浸水深や流速、水位上昇率だけでなく、1haあたりの経済的被害や死者数なども公開されています。
過去の水害をもとに防災教育を行う
※出典:北海道開発局『オランダにおける気候変動適応方策について』
高潮および洪水被害や復興、デルタワークス(Delta Works)、水の安全性に 関する展示をした、北海高潮資料館(Watersnoodmuseum) を開設。視覚的にわかりやすく学ぶことができる体験型施設です。1953年の北海高潮に関する、気象的な要因(高潮の発生要因である嵐など)や被害状況(破堤状況、人的被害など)が展示されています。
まとめ
オランダは低地の多い国ですが、昔から有効な水害対策を行うことで暮らしてきました。今回は、一見環境が異なる日本と対策を比較することで、参考になる点もあったのではないでしょうか。これからも、変動していく気候に合わせて、うまく対策して生活していくようにしましょう。