水とくらし
ALPS処理水とは?汚染水との違いを解説
出典:東京電力エナジーパートナー株式会社「処理水ポータルサイト」
昨年8月、福島第一原子力発電所に溜まった処理水の海への放出が始まりました。政府や東京電力は「処理水は安全なものに処理されている」としていますが、周辺では日本からの水産物の輸入を停止する措置を取っている国もあります。本当に、処理水は安全なのでしょうか。今回は、原発からの処理水の海洋放出の話について、処理水とはどういうものなのかや、安全性・デメリットなどを解説していきます。
目次
ALPS処理水とは?
出典:東京電力エナジーパートナー株式会社「処理水ポータルサイト」
東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまで浄化した水のことを、「ALPS処理水」といいます。
「ALPS処理水」は「汚染水」とどう違う?
「汚染水」は原子力建屋内で燃料デブリに触れて放射性物質を含んだ、適切に処理する前の水のことです。事故後、毎日原発建屋内で発生しているのが「汚染水」で、ALPS(多核種除去設備)などの機器を用いて浄化処理を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質について環境放出の規制基準を満たすまで浄化した水が「ALPS処理水」です*。
*復興庁「ALPS処理水/トリチウム/モニタリングについて」
ALPS処理水はなぜこれまでタンク内に溜められていた?
ALPS処理水の安全性は確保されていましたが、処分を行うことにより発生しうる、風評影響などの社会的な影響について検討するため、当面の間敷地内に保管することとしてきました。
しかし、今後は福島第一原発の廃炉作業は、燃料デブリの取り出しといった重要な作業段階に進んでいく予定で、これらの作業を安全に進めるためには、燃料デブリの一時保管設備や作業に伴い発生する廃棄物の保管施設の建設のため、大きなスペースが必要となると考えられています。そのため、すでにALPS処理水を入れたタンクが設置されているスペースも含め、敷地を最大限有効活用する必要があり、今回政府はALPS処理水の海洋放出を決めました**。
**復興庁「ALPS処理水/トリチウム/モニタリングについて」
ALPS処理水を海洋放出しても大丈夫?
海洋放出の方針を決めたALPS処理水ですが、果たして本当に安全なのでしょうか。現に、一部の周辺国や福島の漁師などに不安を訴えている人々もいます。ALPS処理水の安全性について、詳しく見ていきましょう。
ALPS処理水は安全に処理されてから放出されている
①再浄化処理設備で、トリチウム以外の ②測定・確認用タンクで
放射性物質を規制基準以下に浄化する 処理水の第三者分析を行う
③トリチウムについて規制基準を ④海域モニタリング海水および
十分に満たすよう海水で希釈する 水産物の海域モニタリングを
強化し、測定結果は随時公開
出典:東京電力エナジーパートナー株式会社「処理水ポータルサイト」
ALPS処理水は、以下のような工程を経て、安全に処理された後で海洋に放出されています。
<ALPS処理水を海洋放出するまでの過程>
①再洗浄化処理:ALPS処理水は、まず再浄化処理設備で、トリチウム以外の放射性物質を規制基準以下に浄化します。
②処理水の分析:その後、浄化された処理水は測定・確認用タンクに移し替え、「トリチウム以外の放射性物質が告示濃度比総和1未満であること、およびトリチウム濃度」を国際機関など第三者が確認します。
③海水希釈:安全性が確かめられた処理水の中に残ったトリチウムについても、規制基準の1/40(WHO飲料水基準の約1/7)以下と国の基準を十分に下回るよう海水で希釈します。
④海域モニタリング:海域モニタリングを行いながら放出します***。
***東京電力エナジーパートナー株式会社「処理水ポータルサイト」
国際原子力機関(IAEA)により、安全性が確認されている
2021年4月に発表された基本方針後の日本政府による要請を踏まえ、IAEAはALPS処理水の海洋放出について、IAEAの国際安全基準に合致しているか否かを評価するための技術的な確認(レビュー)を実施しました。
その後、2023年7月に、IAEAがこれまでのレビュー結果をとりまとめた包括報告書を公表しました。
その包括報告書の中では、「ALPS処理水の海洋放出への取り組み、並びに東京電力、原子力規制委員会及び日本政府による関連の活動は、国際的な安全基準に合致している」とされ、「東京電力が現在、計画しているALPS処理水の海洋放出が、人及び環境に与える放射線の影響は無視できるほど」と安全性が評価されています****。
****東京電力エナジーパートナー株式会社「処理水ポータルサイト」
ALPS処理水を海洋放出するデメリットとは
政府や東京電力、IAEAにおいて、安全性が十分に考慮された濃度で処理水が放出されることが分かりました。しかし、実際に処理水の海洋放出については、以下のような懸念点もあります。
海外からの不安の声がある
日本が処理水を海洋放出したことで、中国やロシアなどは日本からの水産物の輸入を停止しました。
下のグラフを見てもわかるとおり、ALPS処理水を海洋に放出するトリチウムの年間総量22兆Bq未満という量は、海外の多くの原子力発電所等からの放出量と比べても低い水準です。そういった事実を、日本政府や東京電力は、今後も海外へもわかりやすく丁寧に発信していくことが求められます。
出典:経済産業省「alps処理水の処分」
地元の漁業者や地域住民が風評被害にあう可能性がある
今回の処理水の海洋放出によって、処理水を放出する海域周辺で漁を行う漁業者に対し、風評被害が拡大するおそれがあります。そのため、政府は、ALPS処理水海洋放出の影響のある漁業者に対して、合わせて800億円となる2つの基金を設けて支援しています。
1つめは、政府は漁業者への処理水放出に伴う風評被害の対策として一昨年に設けた、300億円に上る基金です。
放出の影響で水産物の取引価格が、原則7%以上下落した場合は、以下の措置を行うとしています。
<放出の影響で水産物の取引価格が、原則7%以上下落した場合の措置>
・漁業関係者の団体などが一時的に買い取り、冷凍保管するための費用を上限なしで補助
・企業の社員食堂に水産物を提供する際にかかる費用などを最大1億円支援
・ネット販売など販路拡大の取り組みに対し、最大5000万円を補助
また、2つめは、昨年漁業者の事業継続を支援するために設けられた、500億円の基金です。こちらは処理水の放出の影響で売り上げが3%以上減少した場合には、以下の措置を行うとしています。
<放出の影響で売り上げが3%以上減少した場合の措置>
・新たな漁場の開拓などを支援するため、人件費や漁具の購入費用などに最大3,000万円を補助
・省エネ性能に優れた漁船のエンジンなどの導入費用を支援するため、最大2,000億円を補助*****
*****経済産業省「ALPS処理水の処分に係る対策の進捗と 今後の取組について」
まとめ
東京電力福島第一原子力発電所で起きた事故をきっかけに、世界各地で日本からの食品の輸入停止など規制の動きが広がりました。一時期は世界の55もの国や地域に及びましたが、これまでに48の国や地域でこうした規制は撤廃されています。
政府としては、今も規制を続ける国や地域に対し、個別の会談、国際会議などあらゆる機会をとらえて、撤廃を働きかけていくことにしています。また、漁業者への支援も根強く続けていく必要があるといえるでしょう。
まずは、私達日本の国民が、処理水は正しく処理された安全なものだと知り、その海域で獲れた海産物などを、むやみに恐れずに消費していくことが大切です。